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いえ
家
島崎 藤村
Read 家 (いえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,748 characters · 254 screens
姉はその前に立って、大きな味噌桶を弟に覗かせて、毎日食膳に上る手製の醤油はその中で造られることなどを話して、それから厳重な金網張の戸の閉った土蔵の内部へ三吉を案内した。
二階は広く薄暗かった。一方の窓から射し込む光線は沢山積んである本箱や古びた道具の類を照らして見せた。姉は今一つの窓をも開けて、そこにあるのは祖母さんが嫁に来た時の長持、ここにあるのは自分の長持、と弟に指して話し聞かせた。三吉は自由に橋本の蔵書を猟ることを許された。
姉は出て行った。三吉は本箱の前を彼方是方と見て廻った。その時、彼は未だ自分の生れた家の焼けない前に一度帰省して阿爺の蔵書を見たことを思出して、それをこの家のに比べてみた。ここのはそれ程豊富では無かった。三吉の阿爺が心酔したような本居派の学説に関する著述だの、万葉や古事記の研究だの、和漢の史類だの、詩歌の集だの、そういうものは少なかったが、そのかわり橋本の家に特有な武術、武道などのことを書いた写本が沢山ある。経書、子類もある。誰が集めたものか漢訳の旧約全書などもある。見て行くと、三吉の興味を引くような書目は少なかった。窓に寄せて、大きな柳行李の蓋が取ってあって、その中に達雄の筆で表題を書いたものが幾冊か取散してある。