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てらさかきちえもんのとうぼう

寺坂吉右衛門の逃亡

直木 三十五

Read 寺坂吉右衛門の逃亡 (てらさかきちえもんのとうぼう) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,243 characters · 19 screens

Aozora Bunko

「手前の面あ、何んだ。よく、鏡を見て、熱を出さねえのう」

「お前なあまた、化物がびっくりしたって面だ。河岸のお玉がぬかしてたぞ。甚内の面を見ると、ぶるぶるとするって」

「へん、ぶるぶると。嬉しがるんだ。このとんちき」

「一生、とんちきかなあ。俺でも、お前、主人が殺されりゃあ、討入に行くぜ」

「夜鷹の所へか」

「本当に、※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)と思や、殺してみな。人間、男と生れたからにゃ、末代まで名を残してえや、瓦版になって、鈴木金作、本所の仇討、さあ上下二冊揃って十文、女が喜んで、妾も殺されたいよう――」

「よしやがれ、それで、敵が討てるけえ」

「これが、敵を欺く計画だ」

「同じ下郎でも大ちげえだ。なあ、海老床」

床屋の主人が、髭を剃りながら

「俺ら一生、人の頭をいじって、お飯を頂戴しなくっちゃならんし、人間さまざまだ。寺坂なんて人あ、百年に一人だ、羨むにゃあ当らねえ」

「そうだそうだ、下郎は下郎らしく、身分相応にしてりゃいいんだ」

「お玉を、嬶にしようなんて、諦めろよ」

吉右衛門は

(俺が、門前から、消えてしまったことを、誰か、喋るかしら?――喋るだろうな――いいや、もしかしたなら、喋らんかもしれん。