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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
Read 少将滋幹の母 (しょうしょうしげもとのはは) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 83,234 characters · 160 screens
父の動作は甚しく緩慢なので、どう云う目的で動き出したのか最初は察しが付かなかったが、やがて、片手を床につき、非常に重い物を引き扛げるような息づかいをして、自分の身をそろ/\と真っすぐ起して、立ち上るのであった。老年の結果、それでなくても立ち居がのろくなっているのに、長い間端坐の形を崩さずにいたので、そう云う風にしなければ急には立てなかったのであろうが、さて立ち上ると、よろけるように歩きながら部屋の外へ出るのであった。
滋幹が訝しみながら跡をつけると、父は脇目もふらずに前方を視つめ、階を下りて、金剛草履を穿いて、地上に立った。月が皎々と冴えていたのと、そこらに虫の音が聞えていたのとで、季節が秋であったことは確かであるが、つゞいて庭に下りた滋幹は、自分もあり合う大人の草履を突っかけたけれども、足のうらが冷え/\として、水の中を渉っているような感じがし、月の光で地面が霜を置いたように真っ白だったので、冬ではなかったかと云う気もするのである。父が歩くにつれて、地上にくっきり映っている父の影が揺れて行ったが、滋幹はそれを蹈まないように可なり離れて附いて行った。