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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

Read 少将滋幹の母 (しょうしょうしげもとのはは) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 83,234 characters · 160 screens

Aozora Bunko

か、此の間のあの話を、代りに披露してやるぞ、などゝ云って脅迫する。平中はいよ/\べそを掻いて、拝まんばかりの恰好をして、

「御勘弁を/\」

を繰り返すのであった。

夜はすっかり更け渡ったが、宴はいつ終るとも見えず、馬鹿騒ぎは一層盛んになって行った。左大臣は又「我が駒」を謡い出して、

待乳山

待つらん人を

行きてはや

あはれ

行きてはや見ん

と云いながら、しまいには伸び上るような風をして御簾の方へ秋波を送った。それから誰かゞ「東屋」の文句を謡ったり「我家」の文句を謡ったりした。

「押開いて来ませ、我や人妻、………」

「鮑さだをか石陰子よけん、………」

「りらららりるろ、………」

そのあとはみんな勝手に、てん/″\ばら/\に好きなことを我鳴り散らして、誰も他人の云うことなんぞに耳を傾ける者はなかった。

国経の取り乱し方は一段と甚しかった。坐っていても倒れそうになる上半身を辛うじて支えて、

「玲瓏々々老いたるを奈何にせん」

と、まだあの文句を世迷い言のように口号むかと思うと、誰彼の区別なく傍に来た者を掴まえては、

「愚老はたゞもう忝うて/\、………こんな嬉しいことは八十年来………」

と云いながら、ぽろ/\涙をこぼしつゞけた。