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やまのゆざっき

山の湯雑記

折口 信夫

Read 山の湯雑記 (やまのゆざっき) by 折口 信夫 (おりくちしのぶ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,401 characters · 11 screens

Aozora Bunko

こう言うのをすくのが、此頃の客人気質かも知れぬが、宿屋の為に気の毒な気がした。

下関の村は、月六斎の市日の一つに当る日で、賑うて居た。軒並び覗いて見ても、隅々までも都会化した品物ばかりが並んでいる。目につく物は、凡てぶりきか、せるろいどである。なるほど、所謂げて物が骨董並みに考えられる訣だと思う。もう山もここまで来ると、余程開けて、阪町までは、一続きと言う気がする。

ことしはどう言う訣か、何処へ行って尋ねても、山は岩魚のとれない処が多かった。やまめや、かじかすらあまり喰わしてくれる処がなかった。白布も高湯まで来ると、川が細って居るが、それでも岩魚は、始中終とれて来た。尤、稀に大きいのがついて来るのを、「此川のですか」と問うと、きっと外処の川から来たものだとの答えであった。小形だけれど、ころもを掛けて揚げたりしたのは、却てよかった。湯場から一里もさがると、大白部・小白部など言う村があって、水の手がよいと見えて、谷から可なり高い処に、田地が多く作られて居る。稲は相当に伸びているのに、苗代田はまだ水を張ったまま、豆も作らずにある。豆で思い出すが、此畠を荒すと謂われている郭公が、まだ時季は過ぎないのに、初めから鳴いた事がない。