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あずさがわのじょうりゅう
山岳紀行文集 日本アルプス
小島 烏水
Read 山岳紀行文集 日本アルプス (あずさがわのじょうりゅう) by 小島 烏水 (こじまうすい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,795 characters · 274 screens
あるが、古道の村山を史蹟としても、天然記念物としても、純美なる森林風景としても、保存の方法を講ぜられんことを望む。
我祖先が、始めて神秘な山へ印した足跡を、大切に保存しないということは、永久に続く登山者をも、やがて忘却してしまうことだ。それではあまりに冷たく、さびしくはないか。私はなお思う、古くして滅びゆくもの、皆美し。
七 石楠花
いつごろからのいいならわしか、富士の五合目を「天地の境」と称している。五合目では、実際人の気も変る、誰もわらじの緒を引き締める。私は吉田口の五合目に一泊したが、夜中絶えず、人声と鈴音がする。起きて見ると、眼の前の阪下から、ぬっと提燈が出る、すいと金剛杖が突き出る。それが引っ切りなしだから、町内の小火で提燈が露路に行列するようだ。大抵の登山者は、ここで一息いれる、水を飲む、床几にごろりと横になるのもある。五合目は山中の立場である。
私は、御中道をするために、荷担ぎ一人連れて、小御岳神社の方面へと横入りをした。「途が違うぞよ」「そっちへゆくでねえぞ」遠くから呼ばった人の親切は、心のうちで受けた。水蒸気があまりに濃やかであったため、待ち設けなかった御来光が、東の空にさした。