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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
Read 山彦乙女 (やまびこおとめ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,360 characters · 251 screens
「もうよせ、じたばたするな」
主馬が、ようやく笑いやんで、涙を拭きながら云った。
「柳沢の勢力は瓦解した、甲府城も幕府の手に押えられた、夢は終ったんだ、むだな騒ぎはやめろ」
すると平四郎が云った。
「あっちでなにか声がするぞ」
主馬もふり返った。それは上の(つい今しがた二人のいた池畔の)ほうで聞えた。平四郎はすぐ、そっちへ向って、木の間をぬけながら、駆け登っていった。主馬も、あとを追おうとして、ふと捕方の者に振向き、「こいつはもう動けまい」と来太を顎でしゃくった。
「へたばったら縛れ、それまで手出しをせずに見ているがいい、もしまた暴れでもするようだったら、棒で叩き伏せてやれ」
「それを待っているか」
来太はそう叫び、刀を逆手にして、いきなり脇腹へ押し当てた。捕方の者たちがびっくりし、慌てて刀を叩き落そうとした。
「ああよし、構うな」
主馬が眼をそむけながら云った。
「武士の情けだ、切らせてやれ」
そして走り出した。
平四郎のあとから、登ってゆくと、とつぜん眼の前を、一疋の兎が、さっと横切った。すぐ眼の前だったし、ふいをつかれて、主馬はあっと声をあげた。
「――凶兆だ」