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がけしたのいけ
崖下の池
豊島 与志雄
Read 崖下の池 (がけしたのいけ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,109 characters · 25 screens
池浚えのあと、時子はひどく無口になっただけで、別に怪しい点も見えなかったそうでした。ただ一つ不思議なのは、池から斜め上に当る崖の上に、嘗ては粗末な稲荷堂があって、小さな石の鳥居がまだ残っていましたが、その鳥居の片足に、赤い布が巻きつけてあるのが、誰からともなく見出されました。その赤い布は前日までは、少くとも数日前までは無かったということでした。また、前日、その辺を時子がぶらついてたということでした。然しそれらのことも確かかどうか分らず、ただの風説程度に過ぎませんでした。
然し、それらのことは、清水恒吉に深い印象を与えました。崖にのぼる道が少しく先方にありまして、恒吉はそこから鳥居のところへ行きました。
稲荷堂は焼けたままで、石をめぐらした築土だけになっていました。恒吉は鳥居を眺めていましたが、やがて、その片足にまきつけてある赤い布を、裂き取って地面に打ち捨てました。それから鳥居に両手をかけて、押し倒そうとする身構えをしましたが、俄に顔をしかめて、それをやめ、両手を揉み合せて埃をはらい、振り向きもせずに立ち去りました。
彼は頬の肉をぴくぴく震わせ、声に出して独語しました。