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ばくまついしんかいこだん
幕末維新懐古談
高村 光雲
Read 幕末維新懐古談 (ばくまついしんかいこだん) by 高村 光雲 (たかむらこううん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 1,523 characters · 3 screens
それから、また暫くの後、或る日私が仕事場で仕事をしていると、一人の百姓のような風体をした老人が格子戸を開けて訪ねて来ました。
その人は、チョン髷を結って、太い鼻緒の下駄を穿き、見るからに素樸な風体、変な人だと思っていると、
「一つ彫刻を頼みたい」という。
「木で彫る方の彫刻なら何んでも彫りましょう」
と答えると、
「それは結構、では今夜私の宅へ来て下さい。能く御相談をしましょう。私は神田旅籠町の三河屋幸三郎というものだ」
こういい残して帰りました。どういう人物か知らないが、とにかく、約束通り、私は、その宿所へ訪ねて見ると、それはなかなか立派な構え、御成道の大時計を右に曲って神田明神下の方へ曲る角の、昌平橋へ出ようという左側に、その頃横浜貿易商で有名な三河屋幸三郎、俗に三幸という人の店であった。
私は、迂闊していたことをおかしく思いながら、通されて逢うと、幸三郎老人はなかなか話が分る。そのはずで、この人は維新の際は彰義隊に関係したという疑いを受けたこともあり、後、五稜廓で奮戦した榎本武揚氏とも往来をして非常な徳川贔負の人であって剣道も能く出来た豪傑、武士道と侠客肌を一緒につき混ぜたような肌合いの人物で、この気性で、時勢を見て貿易商になっているのであるから、なかなか、話も分るわけである。