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へいぼん
平凡・私は懐疑派だ
二葉亭 四迷
Read 平凡・私は懐疑派だ (へいぼん) by 二葉亭 四迷 (ふたばていしめい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,548 characters · 161 screens
私は其頃新進作家で多少売出した頃だったから、急に気が大きくなり、それに天性の見栄坊も手伝って、矢張某大家のように、仮令襟垢の附いた物にもせよ、兎に角羽織も着物も対の飛白の銘仙物で、縮緬の兵児帯をグルグル巻にし、左程悪くもない眼に金縁眼鏡を掛け、原稿料を手に入れた時だけ、急に下宿の飯を不味がって、晩飯には近所の西洋料理店へ行き、髭の先に麦酒の泡を着けて、万丈の気を吐いていたのだから、両親が内職に観世撚を撚るという手紙を覧た時には、又一寸妙な心持がした。若し此事が夫の六号活字子の耳に入って、雪江の親達は観世撚を撚ってるそうだ、一寸珍だね、なぞと素破抜かれては余り名誉でないと、名誉心も手伝って、急に始末気を出し、夫からは原稿料が手に入ると、直ぐ多少余分の送金もして、他の物を撚っても、観世撚だけは撚って呉れるなと言って遣った。
で、此時もつい二三日前に聊かばかり原稿料が入った。先月は都合が悪くて送金しなかったから、責て此内十円だけは送ろうと、紙入の奥に別に紙に包んで入れて置いたのが、お糸さんの事や何や角やに取紛れてまだ其儘になっている。それをお糸さんの身上話を聴くと、ふと想い出して、国への送金は此次に延期し、寧そ之をお糸さんに呈して又敬意を表そうかと思った。