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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Read 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) by 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 113,247 characters · 229 screens
「右の手ですって」と島田は妙な表情をして聞きなおした。
「そうだ、お前のこめかみは後ろから殴られたのか、それとも前からか?」
「それが、その咄嗟の間のことで、前からだったか、後ろからだったか……たぶん横の方からだったように思います」
「お前の手をしばるときに、泥棒は両手をつかったか?」
「その時は、一つがーんとやられたあとなので、一向はや……夢中でした」
「マッチはどうしてつけた?」
「そこにある灰皿のマッチですって、証文をそこの畳の焦げているところに積んで燃やしていました。そういえば一方の手しかつかわなんだようにも思いますが、それが右だったか、左だったか、どうも……」
「金庫には証書類のほかに紙幣はなかったのか?」
「百円札で三千円と、十円札で七百円ばかりございましたが、図々しい奴でわたしの見ている前で、もってゆきました!」
「泥棒は何かいわなかったか?」
「いわんどころじゃありません。はじめからしまいまでしゃべりつづけでした。貴様は社会の毒虫だから、天に代わって懲罰してやるのだなんて、大そうなことをいっていました」
「心あたりは全くないんだね?」
「別にこれという奴はございませんが何しろ、わたしが金を貸した野郎は、みんなわしをにくんでおりますで……」