Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Read 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) by 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 113,247 characters · 229 screens
のである。親も兄弟も親しい知人もない上に、知らぬ人に向かってはろくろく口もきけない私は、完全に生活の手段を失ってしまったのだ。それでも今日まではとにかく、あらゆる屈辱にたえて生きてきた。だが今日から先は人間が生理的に、栄養の補給なしに生き得る日数だけ生きて、燃えつくした蝋燭の火のように自然に消滅してゆくより外はない。私には自殺をする勇気もないからだ。
私は、最後の十銭の白銅を牛飯にかえて五六時間地上の生活をのばす代わりに、ついふらふらと気紛れでそれをこの動物園の入場料にかえてしまったものらしい。何しろはいった時のことはどうもはっきり記憶しておらぬ。
四時頃、私は西日を浴びて猿の檻の前に立っていた。「道ばたに犬長々とあくびしぬ、我れも真似しぬうらやましさに」不思議に啄木の心境が思い出される。じっさい動物は羨ましい。私は、敏捷に枝から枝へ、金網から地上へ跳びまわっている猿が羨望に堪えなかった。実に元気な動物だ。それにひきかえ疲労と空腹との極に達した私の身体は、少しはげしく動かせば、そのままくたくたとくずおれてしまいそうな気がした。
ふと気がつくと、二三時間前に、象にビスケットをやっていた男が、またビスケットをどこかで買ってきたものと見えて、今度は猿にそれを投げてやっていた。