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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Read 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) by 松本 泰 (まつもとたい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 52,797 characters · 107 screens
柏の言葉が終らないうちに、けたたましく呼鈴が鳴った。窓際に立っていた私はカーテンの陰から下を覗くと、玄関の石段の上に制服巡査と、大黒帽を被った自動車の運転手らしい男が立っていた。それは先夜彼女を乗せて逃した折の、自動車の運転手であった。
「これはいけない、何処か隠れ場所はないか、屋根裏? 便所?」私はオロオロしながら叫んだ。
七
呆気に取られている柏を押飛ばすようにして私は廊下へ出た。突当りは便所で行止りであるし、屋根裏へ遁げる梯子も見当らなかったので、又部屋へ戻ってガリガリと古戸棚を開けたりした。寝台の下へ潜ろうとした。
そこへ扉を叩いて、警官と運転手が入ってきた。絶体絶命である。運転手は私を指差して、
「この方です。この方が暮の二十九日の晩に、ストランドの裏通りから駆けてきて、あの女を私の自動車へ乗たのです」
「一体どうしたんです。女とは誰です? 私の友人と何の関係があるんです」私が言葉を発する前に、気早な柏は一足前へ進み出ていった。
「お騒がせして相済みません。実は御承知かも知れませんが、暮の二十九日の晩、ストランドの裏小路で、殺人事件があったのです。