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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Read 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) by 松本 泰 (まつもとたい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 52,797 characters · 107 screens
と見ると、十数間先の四角になった小径を横切って、バラバラと馳けて行った女があった。姿はたちまち見えなくなったが、縁のある大きな帽子を被った女であった。
坂口は地下鉄道の停車場傍まで来ると、其前から市街自動車に乗って、ベースウオーター街の家へ帰った。
伯父は未だ戻っていなかった。それで直にコックス家を訪ねた。女中はとうに、自分の部屋へ引退って了って扉を開けてくれたのはビアトレスであった。
居間ではエリスが手巾を眼にあてて、深い椅子に腰を下ろしたまま、じっと首垂れていた。ビアトレスと坂口は言葉もなく、その傍に佇んだ。
ビアトレスは劬るように母親の肩を撫でていた。
「本統に私はどうしたらいいか、少しも分らない。……何も彼もみんな私が悪かったのですよ」霎時してエリスは絶入るような低い声で云った。
「ビアトレスさんがパーク旅館に監禁された事といい、昨晩旅行に出掛けた筈の伯父が、貴女の後を追ってパラメントヒルへ出掛けた事といい、私には何が何だか薩張り了解りません」と坂口がいった。
「昨夜から旅行しているのですって? 林さんは何処に居ります」エリスは泣膨らした眼を上げて訊ねた。