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しょみんのたべもの
庶民の食物
小泉 信三
Read 庶民の食物 (しょみんのたべもの) by 小泉 信三 (こいずみしんぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 1,974 characters · 4 screens
魚をじかに火で炙るということは、ほかの国ではしないことなのか。西洋を旅行して、裏町を歩いても、魚を焼く匂いをかいだ記憶はないように思う。青煙散ジテ入ル五侯ノ家、という唐詩の句は、別のことを詠じたものであるが、とにかく、脂ののった魚を焼く煙が、民家の軒をくぐって青く夕暮の空に上るという景色は、日本独特のもので、われわれに強く国土と季節を感ぜしめる。
魚を焼くといえば、まずサンマと鰯を想うが、この国で、こんなうまいものが、安く、誰の口にも入るとは仕合せなことだ。私の母は鰯が好きで、私たちが子供のとき――その頃私は魚よりも肉を好んだが――焼いた鰯を食べさせながら、「こんなおいしいものを天子様にさし上げたい」と、よくいった。鰯やサンマのような下魚(げうお)は、宮中の食膳には上らないものと思っていたらしいが、きけば事実は必ずしもそうでもないらしい。それはとにかく、人間が――ことに勤勉で勇敢な日本の漁夫が――捕り過ぎて、魚がだんだん少なくなっていくという。鮭も鱒も蟹もであるが、ますます増加する人口のため、サンマと鰯は取りとめたいものである。
サンマ、鰯といえば、温かい飯とこなくてはならないが、贅沢な料理の膳に向ったときよりも、かえって家庭で、このような質素でうまい食事をするときに、今日もこうして無事に飯を食うと思い