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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Read 怪しの館 短編 (あやしのやかた) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,915 characters · 165 screens
襲衣が溝を作っている。ひらかれた足のひらき目である。襲衣の襟が寛いでいる。で胸もとが一杯に見える。肋骨などあるのだろうか? そんなようにも感じられるほど、脂肪づいた丸い厚い胸が、呼吸のために相違ない、ゆるやかに顫え動いている。
「味のよい果物がここにあります」
島子歌うようにいい出した。
「めしあがりませ、琢磨様!」
頤を支えていた左の腕を、こういいながらダラリと落とし、寝台の上へ長々と延ばした。と、襲衣の襟が捲くれ円々とした肩が現われた。連れて一方左の乳房が、タップリと全量を現わした。さも重たそうな乳房である。
「さあご返辞をなさりませ」
こういうと島子は眼を閉じた。いや半眼に閉じたのである。と大きな眼が急に細まり、下のまぶたへ濃いかげが出来た。睫毛がかげを作ったのである。何んとひときわその眼付き、誘惑的になったことか! 陶酔的の眼であった。恍惚とした眼であった。
と、その眼をすっかり閉じ、支えていた右手を頤から取ると、島子はガックリ首を垂れた。寝椅子へ額を押しあてて、ベッタリ臥伏せに寝たのである。襲衣の襟が楔形に、深く背の方へひかれたためか、背筋まで見せて頸足が、ろくろっ首のように長くなった。