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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Read 怪しの館 短編 (あやしのやかた) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,915 characters · 165 screens
そこへ髪の毛がもつれている。髪の毛の間からヌラヌラと、白い艶のよい肉が見える。海草の中から、白珊瑚が、チラチラ光っているようである。
「味のよいお酒がここにあります」
眠くて眠くてたまらないような、ぼっとした声で、うっとりとこう島子は呼びかけた。
「お飲みなさりませ、琢磨様」
そろそろと全身をうねらせた。寝返りを打とうとするらしい。仰向けになろうとするらしい。
武士が一人立っている。
寝椅子の傍に立っている。
ほかならぬ三蔵琢磨である。
冷然として立っている。島子の嬌態など見ようともしない。顔など決して充血していない。といって決して青ざめてもいない。眼を正しく向けている。口を普通に結んでいる。足も決してふるえていない。こぶしなども決して握っていない。あくまでも冷静沈着である。
だが額の一所に、汗の玉のあるのはどうしたのだろう?
木彫のように黙っている。だがもし彼が物をいったら、ふるえないということがどうしていえよう。
ふるえ声を女に聞かれるのを、恐れて物をいわないのかもしれない。
なぜ彼は島子を見ないのだろう? そういう女の嬌態などに、感興をひかないたちだからだろうか? そういうようにも解される。