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あくにんのむすめ
悪人の娘
野村 胡堂
Read 悪人の娘 (あくにんのむすめ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,405 characters · 27 screens
「エッ、ではお父様はあれを御覧になって居らしったのですか」
「あの欄干の外の板囲いの蔭に、私は隠れて居たのだよ。出て行き度い事は山々だったが、あの時私は、恐ろしい眼に前後から見張られて、身動きすることも出来なかったのだ。……お前が心配の余りどんな事をするかも知れないと思ったので、正直そうな若い男に頼んで、お前の危いところを助けさせたのだよ」
「お父様?」
「おれは何も彼も知って居る……何んだって又お前は、あんな馬鹿な心持になったのだ」
「お父様」
美しい娘は、汚い乞食姿の父親にすがり付いて、声を飲んで咽び泣きます。
「ネ、あんな不心得な考を起さずに、少し位の事は我慢して、なぜ駒形の別荘にじっとして居ないのだ、……もう二三日すると、私は旅券を手に入れることになって居る。旅券さえ手に入れば、一度台湾か、満州へ行って、そこを足がかりに、南米へ落ち延びるのは何んでもない。南米へ行って落付いたら、直ぐ信用の出来る人を迎いに立てて、お前を呼び寄せると堅く言って置いたじゃないか。あれほど噛んで含めるように言ったのに、どうしてお前はわからないのだ。いくらお前でも、たった半年か、精々一年の辛抱が出来ないという筈は無い……駒形の別荘は、お前の名義になって居るから、世間では誰もお前の身許などを知りはしない、それが嫌なら、竹町の婆やの所