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あくじゅうへん
悪獣篇
泉 鏡花
Read 悪獣篇 (あくじゅうへん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 36,715 characters · 73 screens
ひしひしと花ふだの響がするのを、保養の場所と大目に見ても、好いこととは思わなかったが、時にこそよれ頼母しい。さらばと、やがて廊下づたい、踵の音して、するすると、裳の気勢の聞ゆるのも、我ながら寂しい中に、夢から覚めたしるしぞ、と心嬉しく、明室の前を急いで越すと、次なる小室の三畳は、湯殿に近い化粧部屋。これは障子が明いていた。
中から風も吹くようなり、傍正面の姿見に、勿、映りそ夢の姿とて、首垂るるまで顔を背けた。
新しい檜の雨戸、それにも顔が描かれそう。真直に向き直って、衝と燈を差出しながら、突あたりへ辿々しゅう。
十八
ばたり、閉めた杉戸の音は、かかる夜ふけに、遠くどこまで響いたろう。
壁は白いが、真暗な中に居て、ただそればかりを力にした、玄関の遠あかり、車夫部屋の例のひそひそ声が、このもの音にハタと留んだを、気の毒らしく思うまで、今夜はそれが嬉しかった。
浦子の姿は、無事に厠を背後にして、さし置いたその洋燈の前、廊下のはずれに、媚かしく露われた。
いささか心も落着いて、カチンとせんを、カタカタとさるを抜いた、戸締り厳重な雨戸を一枚。半ば戸袋へするりと開けると、雪ならぬ夜の白砂、広庭一面、薄雲の影を宿して、屋根を越した月の影が、廂をこぼれて、竹垣に葉かげ大きく、咲きかけるか、今、開くと、朝の色