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じょういのかんまん
情意の干満
豊島 与志雄
Read 情意の干満 (じょういのかんまん) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 2,599 characters · 6 screens
ルイ・フィリップに見出す。ニイチェにさえも、否大抵の人に多少とも……。そして私の眼には、通俗版画のなかの、キリストを仰ぎ見る使徒たちの眼付が、まざまざと映ってくる。ああいう眼付で彼等はキリストを眺めた筈はない。然し今私は、それに似た眼付で凡てのものを眺める。
情意の干潮の時なのだ。
恋人よ、私は君のことを考える。君のやさしい目差しを、君の微笑みを、君の温かい息を、更に、君の存在のなつかしい香りを……。それが、曇り日の夜明の色とぬるま湯の感触とを帯びて、拡がり拡がり、私の世界を包んでしまう。私の周囲に深く立ち罩め、私の視線を遮ぎり、私の心の奥底にしみこんでくる。書を読む私の眼はいつしか空間に放たれ、物を書く私の手はいつしか机上に置き忘れられて、私はぼんやり君のことを夢みている。夢想のなかの君が現実であるか仮象であるか、私は知らない。何れにせよ、私にとっては、君であることに変りはない、君の存在であることに変りはない。無数の思い出と予想とが、空想の自由さと柔軟さを以て浮んでくる。私はそのなかを夢遊病的に彷徨し、催眠状態で君を見戍る。自ら気付いて驚き覚むることもあるけれど、それは瞬時の隙間で、また君の「色香」