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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

Read 我が家の楽園 (わがやのらくえん) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 90,195 characters · 175 screens

Aozora Bunko

大家さんのおじいさんは、うちの石田氏の手を握って、

「一年、まさに尽くるの夜、万里、いまだ人帰らず……今年の大晦日には、隣り組の忘年会をやって、盛大に飲むつもりだったが、あなたが抜けたので、淋しくなりました。あの家は、暮まで明けておきますから、あちらのぐあいが悪かったら、いつでも帰っておいでなさい」

と真情溢るるがごとき挨拶をした。

大家さんとしては、ありふれた復古調に託して、惜別の情を述べたくらいのところだったのだろうが、百々子の耳には、それがこんなふうに聞えた。

「君は、この一月の行政機構改革で、農林省の整理人員、二万百八十六名の筆頭になり、八割増しの退職手当をもらって、先行きのないところでまごまごしているわけだが、そんな大邸宅で、身のつかぬ生活をし、むざむざ税金の餌食になってしまうより、馬鹿げた大屋台を始末して、このバラックの楽園で、つつましく平和な暮しをすることを考えたら、どうなのか」

パパなる石田氏が、五ヵ月も前に、農林省を馘になっていたことは、かくいう百々子と石田氏だけが知っている秘密だった。その百々子でさえ、ついこのごろ、余儀ない当人の自白によって、ようやく事実を承知したほどだから、渋谷の奥にある、十戸ばかりのバラックを差配して、歯ぬけ謡をうなるほか能のないおじいさんが、そこまでの洞察をしよ