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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
Read 我が家の楽園 (わがやのらくえん) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 90,195 characters · 175 screens
石田氏は口髯を撫でながら、うっそりと見おろしていたが、
「気ちがいのつぎが、捨児か……すこし、授かりものが多すぎるようだな」
と、わけのわからないことをつぶやいた。
百々子が坂下の交番へ電話をかけた。
「もしもし、上の石田ですけど、藪の中に、子供が捨ててあるんです。泣いていますから、すぐ取りにきてください」
「えっ、またですか」
「また、って、そんなに、しょっちゅう捨てるんですか」
「ええ、お宅の藪の中へ……これで、五人目です。弱ったな」
「あなたが弱ることはないでしょう……じゃ、どうか、すぐ」
十分ほどすると、先日、女の豪傑たちを追い帰してくれた、若い警官がやってきた。
「やあ、どうも、とんだご災難で……できるだけ身元を調べて、母親にかえすことになっているのですが、捨てる気で捨てたのは、わかりっこないので困ります。これも、上野の乳児園行きでしょう」
そんなことをいって、あぶなっかしい手つきで抱いて行った。
この夜は、石田氏と同夫人の間に、相当な激戦が行なわれるはずだったが、思いがけない調停が入って、うやむやのうちに明日に繰りのばされることになった。
十時近く、一家五人は、別れ別れになって、おのが居住にひきとったが、この一日は、なにかと波風が立ち、百々子までが昂奮して、遅くまで寝つけなかった。