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あるおんな
或る女
有島 武郎
Read 或る女 (あるおんな) by 有島 武郎 (ありしまたけお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 205,655 characters · 406 screens
退院して家に帰りたいとせがんでしようのない時は、そっと向きをかえて臥かしてから、「さあもうお家ですよ」というと、うれしそうに笑顔をもらしたりした。それを見なければならぬ葉子はたまらなかった。どうかした拍子に、葉子は飛び上がりそうに心が責められた。これで貞世が死んでしまったなら、どうして生き永らえていられよう。貞世をこんな苦しみにおとしいれたものはみんな自分だ。自分が前どおりに貞世に優しくさえしていたら、こんな死病は夢にも貞世を襲って来はしなかったのだ。人の心の報いは恐ろしい……そう思って来ると葉子はだれにわびようもない苦悩に息気づまった。
緑色の風呂敷で包んだ電燈の下に、氷嚢を幾つも頭と腹部とにあてがわれた貞世は、今にも絶え入るかと危ぶまれるような荒い息気づかいで夢現の間をさまようらしく、聞きとれない囈言を時々口走りながら、眠っていた。岡は部屋のすみのほうにつつましく突っ立ったまま、緑色をすかして来る電燈の光でことさら青白い顔色をして、じっと貞世を見守っていた。葉子は寝台に近く椅子を寄せて、貞世の顔をのぞき込むようにしながら、貞世のために何かし続けていなければ、貞世の病気がますます重るという迷信のような心づかいから、要もないのに絶えず氷嚢の位置を取りかえてやったりなどしていた。