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ほうろう
放浪
織田 作之助
Read 放浪 (ほうろう) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,614 characters · 47 screens
誰に教えられるともなく始めた寝る前の「お休み」がすっかり身についていた。色が黒いとて茶断ちしている叔母に面と向って色が白いとお世辞を言うことも覚えた。また、しょっちゅう料理場でうろ/\していて、叔父からあれ取れこれ取ってくれと一寸した用事を吩咐られるのを待つという風であった。気をくばって家の容子を見ている内に、板場の腕を仕込んで行末は美津子の聟にし身代も譲っても良いという叔父叔母の肚の中が読みとれていたからである。
叔父は生れ故郷の四日市から大阪へ流れて来た時の所持金が僅か十六銭、下寺町の坂で立ちん坊をして荷車の後押しをしたのを振出しに、土方、沖仲士、飯屋の下廻り、板場、夜泣きうどん屋、関東煮の屋台などさま/″\な職業を経て、今日、生国魂神社前に料理仕出し屋の一戸を構え、自分でも苦労人やと言いふらしているだけに、順平を仕込むのにも、一人前の板場になるには先ず水を使うことから始めねばならぬと、寒中に氷の張ったバケツで皿洗いをさせ、また二度や三度指を切るのも承知の上で、大根をむかせてけん(刺身のつま)の切り方を教えた。庖丁が狂って手を切ると、先ず、けんが赤うなってるぜといわれた。