Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
きられたさに
斬られたさに
夢野 久作
Read 斬られたさに (きられたさに) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,352 characters · 41 screens
と自分の心を疑う気持ちにさえなった。
「……これは又……どうして……」
「お久しゅう御座います」
若侍は美しく耳まで石竹色に染めて眼を輝やかした。
「イヤ。まずまずお話はあとから……こちらへ上り下されい。手前一人で御座る。遠慮は御無用。コレコレ金作金作。お洗足を上げぬか……サアサア穢苦しい処では御座るが……」
平馬は吾にもあらず歓待めいた。
若侍は折目正しく座敷に通って、一別以来の会釈をした。平馬も亦、今更のように赤面しいしい小田原と見付の宿の事を挨拶した。
「いや……実はその……あの時に折角の御厚情を、菅なく振切って参いったので、その御返報かと心得まして、存分に讐仇を討たれて差上げた次第で御座ったが……ハハハ……」
平馬は早くも打ち解けて笑った。
しかし若侍は笑わなかった。そのまま眩ぶしい縁側の植え込みに眼を遣ったが、その眼には涙を一パイに溜めている様子であった。
「……して御本懐をお遂げになりましたか」
「はい。それが……あの……」
と云ううちに若侍の眼から涙がハラハラとあふれ落ちた……と思う間もなく畳の上に、両袖を重ねて突伏すと、声を忍んで咽び泣き初めた。