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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens
――先頭の者の槍の柄に、あとの者が縋り、その腰に、その槍の柄にまたつかまってようやく三町余りの嶮を踏み越えた。
夜が白みかけた。
まさに二十一日の払暁。
雲は断れて、朝陽の光彩が深い霧の海を十方につらぬいている。
「晴れたッ」
「天の幸いし給うところ」
「首尾はいいぞ」
山上で人々は甲を身に着直した。――そして全軍を三隊にわけ、一は中山の敵塁に朝討ちをかけ、一は鳶ヶ巣へ馳せ向った。
「よもや?」
と、多寡をくくっていた敵は、寝ざめの喊声にうろたえた。中山の砦からやがて黒煙が揚った。――早くも奇襲の兵が火を放ったのである。
ここから崩れ散った敵は鳶ヶ巣へ逃げて、そこの防塁に拠った。しかし時すでに防壁の一部から寄手の別働隊が塞内に混み入っていた。乱軍のなかに喉もつぶれるばかり叫んでいる声が聞える。
「武田信実を討ったぞッ。――守将武田信実は討ちとったぞうッ」
ここも忽ち炎だった。約束の烽火にも及ばず、二ヵ所の黒煙は、極楽寺山の味方の本陣からも、早あきらかに観て取れたに違いない。
前夜――酒井忠次たちが密かに鳶ヶ巣へ向った後、
「前進」
の令は、信長の全軍に発しられていた。