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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens
信長の性格を「火」と観るのは間違いである。また彼の冷静を観て「水」のような人だというのも違っている。
火かと思えば水。水かと思えば火。炎々冷々、二相一身。いずれでもあり、いずれでもない。――彼はただ、飽くまで信長と名乗る、人間の中には稀な型の一人間であるに過ぎない。
「筑前を呼べ」
沈思していた信長が、突として左右の者へいったとき、
「羽柴どのには、はや今朝がた、播磨へ向って、立ち帰った様子――」
と、声せわしく、答えた者がある。この急変を今、信長へ報らせに来て、そのまま黙然とひかえていた滝川一益である。
「はや、帰ったか」
つい昨夜は、降将宇喜多直家を交えて、祝盃をあげたその今朝なのである。――信長の顔いろには徐々、焦躁が濃くなっていた。
――と、見て。
「あいや、まだ遠くは距ちますまい。おいいつけ下さるなれば、私が一鞭あてて、羽柴どのを呼び返して参りますが」
快い機転である。
時にとって信長の焦躁を救うこと一通りでない。それを誰かと人々が見ると、つねに信長の陰にいる森蘭丸であった。
「おお、蘭丸か」
信長は、彼の望みを励まして、
「行って来い。すぐさま」