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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens

Aozora Bunko

びっくりして、秀吉を見上げた。秀吉は手をとって、

「半兵衛、あまりかもうてくれるな。それよりは少しでも座を共に、語ろうではないか」

部屋へ連れて来て、杯を取らせたが、半兵衛は、病があるので、唇をふれるのみである。

が――飯はふたりで、共に喰べた。久しぶり、こうして主従で喰う飯のうまさ、飯のたのしさ。

「見舞いに立ち寄って、見舞われて帰るようなものだったな。しかしわしも元気づいたぞ。これで戦える。――半兵衛、そちも大事に、身を養ってくれよ。頼むぞ、頼むぞ養生を」

やがて秀吉は、従者の列をしたがえて、南禅寺の山門から見送られて立った。――時、日もすでに暮れかけて、洛中の空は茜していた。

智者・無智者

寂として弾音一つしない。これが戦場かと疑われるほどである。蟷螂ひとつ枯草へ辷り落ちた音すらカサリと耳につく。

中国の秋はふかい。紅葉もこの二、三日がさかりの峠であろう。――秀吉の眸の中まで、その紅は燃えているようだった。

ここ平井山の陣所。

相対坐しているのは、官兵衛孝高である。いつか、月見をしたあの物見の松の下に腰かけて、ふたりは数語のうちに、大事を決めていた。