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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens

Aozora Bunko

居あわす諸将に対しての会釈である。そして小腰を屈め直した。人々の前を通って、信長の正面に到り、慇懃に礼をしてから、初めて主君の面を仰いだ。

「…………」

筑前来たかとも、信長はいわなかった。

――予の立腹を見よ。

といわないばかりである。

信長のこういう顔つきと沈黙に出会って、懼れ伏さない将は幾人もいない。いや信長の一族を加えても、絶無だといってよいだろう。

宿将格の柴田勝家にせよ、佐久間信盛にせよ、信長の眼にこう見すえられたら、かならず色を失ってしまう。

丹羽、滝川などの世馴れた老巧をもってしても、途方にくれる、陳弁につとめる、そして為すところを知らないだろう。

明智光秀の聡明でも、いかんとも執りなしはつくまい。森蘭丸の寵をもってしても、とりつく島はないに相違ない。

ひとり秀吉だけは、こういう場合、その受け方がちがっていた。信長の怒りに会って、どう睨めつけられようが、顔つきを誇示されようが、いっこうに受身の彼のほうは切迫した反射を示さないのである。

それも決して、主君を軽んじているのではなく、むしろ人一倍、恐れ入って、しかも慎みながら、

――ははあ、またすこし、お腹を立っておいでだな。