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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens
片づいた――という意味であろう。信長は伊丹城をながめて云った。
その伊丹城は、完全に孤立化したが、まだ陥落はしていない。しかし信長の眼にはもう陥ちているも同様であった。
味方の包囲陣をのこして、彼は急に、安土へ帰ってしまった。十二月の二十五日という歳末である。
「正月は安土で」
と、いうつもりらしい。
こういう不測な戦乱や遠征に追われて暮れた年だったが、城下街を見渡すところ実に濃厚な新文化のにおいが立ち昇っていた。整然たる区画整理の下に大小の店舗は軒をならべ、信長の経済政策が功を奏して、旅舎や駅亭の客はあふれ、湖畔には泊船の帆ばしらが林立し、侍小路の住宅地域も諸大将たちの宏壮な邸も、いまはあらかた完成していた。
寺院も増築しているし、また、さきに許可を得たオルガンチノ一派の伴天連も、地を選んで、南蛮寺の建立にかかっていた。
文化というものは不思議な霧である。元来、それを破壊することばかりやって来たといっていい信長の膝下に、いまや画期的な新文化がここに勃興しかけている。
音楽、演舞、絵画、文学、宗教、茶道、衣、食、住のあらゆる部門のものが、こぞって、しかも好んで、旧臭旧態を脱ぎ捨て、新鮮に新鮮にと、たとえば女子の着る小袖模様一つにでも新しい創意を生み出すことを、安土の文化は競いあっていた。