Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens
御旗楯無
御旗楯無
武田勝頼は三十の春を迎えていた。亡父の信玄よりは遥かに上背丈もあり、骨ぐみも逞しかった。美丈夫と呼ばれるにふさわしい風貌の持主であった。
忽然と、信玄が逝いてから、ことしは正に三年目――四月はその忌明の月にあたっている。
――三年は喪を秘せ。
と、故信玄の遺命はよく守られて来た。けれど、年々その忌日には、恵林寺をはじめ諸山の法燈は秘林の奥にゆらいで、万部経を誦みあげていた。
勝頼も、その日は、兵馬の事を廃して、毘沙門堂のうちに慎み、眼に新緑を見ず、耳に老鶯を聞かないこと三日にわたっていた。
扉をひらいて、躑躅ヶ崎の館から、香煙を払った日である。衣刀を革めて、勝頼が表の座にあらわれるとすぐ、待ちかねていたように、跡部大炊介が目通りに拝伏して、
「――火急とございますからただちに御一見のうえ、おことばでなりと、御返辞をねがわしゅう存じまする。返書は、それがしより認めてつかわしますゆえ」
と、一通の書面をわたした。
あたりには誰もいなかった。大炊介の容子では、特にそういう折を見はからっていたようでもある。
「……お。岡崎から?」
勝頼は、手にとると、すぐ封をやぶった。