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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 192,758 characters · 383 screens
御坊塚
六月十三日秀吉判
加藤虎之助どの
真情率直だ。何の文辞も、誇張もない。――が、この一片の紙は、黄金の兜、名物の茶入れにも優ること数等の勲章となろう。これを約された若い一武者は感涙にむせんで押しいただいた。市松、助作、佐吉、孫六などの他の小姓たちは、羨望の眼をみはって、ひそかに後の自己へ誓っていた。
御坊塚
暗い松風が陣営を搏つ。
陣幕は白い生き物のように、大きく膨れる。はたはたと翻ってはまたしきりにただならぬ悲歌を謡う。
「与次ッ、与次ッ」
「はいッ」
「いまあれへ来て、何事かを告げるや否、すぐまた、取って返した使者は、誰からの使いか」
「はッ」
「なぜいちいちこの光秀に告げぬ」
「まだ……事実や否やも、確と定まりませぬゆえ」
「何であろうと、伝令のつたえを、光秀の耳に入れぬ法やある。与次郎ッ」
「はいッ」
「しっかりせいッ。――味方の敗色にそちまでが度を失うたか」
「残念なことを仰せられます。堀与次郎は、死を期しておりまする」
「……そうか」
光秀はふと、自己の甲高さに気がついて声を落した。そして堀与次郎をたしなめたそのことばは、そのまま、自分に向けて聞くべきだと思い直した。