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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 192,758 characters · 383 screens

Aozora Bunko

深夜行

「何だ。そのようなことか」

「今さら、お耳に入れても、この挽回はつきませぬ。いたずらに、御不快と焦躁を加えるまでのことと、実は折を見て、お話し申すつもりでおりました」

「なんの、人の世じゃ。とりわけ順慶のごときは、人の中でも、最もありふれた人柄。あれのやりそうなことよ。たれが歯牙にかけようぞ」

光秀は笑った。強いて笑ったといえないこともない。そして彼の手は陣後をさし招いた。馬を曳け、馬をと、にわかに、焦心って呼ぶのであった。

深夜行

援軍また援軍と追いかけに兵を出したので、残り少なくなっていたが、ここにまだ老臣旗下以外、二千に近い兵力はある筈。

光秀はその手勢をひっさげて、敵中の御牧三左衛門兼顕の残軍に合し、最後の一戦を試みようとしたのである。

馬上に身を移すと、全御坊塚の営にとどろくような声で、自身、進撃の令を叫んだ。そして、全営の兵がむらがり寄るいとまも待たず馬首を振り向け、左右の士わずか数騎と共に丘を駈け下っていた。

「あッ。――立つは誰だ」

光秀は急に馬を止めた。ふいに一つの陣幕の内から転び出た人影が、傾斜を駈け下って、いきなり道に立ちはだかり、光秀の馬の前に、大手を拡げて立ったからである。