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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 176,911 characters · 353 screens

Aozora Bunko

友松は、前の夜、尼の庵から帰ると、ただちに筆をとって、あの下絵を基本に、隠士竹中半兵衛像を一気に描きあげてしまい、なに思ったか、それを早暁、松琴尼の許へとどけると、すぐその足で、ひと月余り客遊していた菩提山のふもとを辞し、例によって、あてなく先の旅路へむかい出して来たのであった。

(どうして、そんな急に……)

と、松琴尼にも今朝あやしまれたが、彼は笑って答えなかった。御機嫌よう、と一言のこして、霞の中へ消え去った。尼と於通は、見送っていた。そして前の晩、友松が冗談のようにいったことばを思いだしていた。

(お尋ね者です、てまえは。――明智の首を盗んでどこかへそッと埋葬したと噂されている……下手人で)

当人の口からそういっても、なお聞く者をして、嘘か真か、迷わすような風であった。

しかし、秀吉の家士武藤清左衛門の一行が、尼院へ着いたとたんに、彼は、風のごとく帰ってしまい、またすぐ翌未明に岩手の里を立って来たなど、不審にすれば充分な不審である。“明智どのの首盗人”とひと頃、市井の話題だった犯人は、案外、噂どおりのものかもしれない。

主家斎藤家の亡滅後から、彼はいまの境涯にあまんじて来たのであるが、その斎藤家を亡ぼした織田家のためには、かつて信長が安土城の大普請に、あまねく天下の画匠に障壁画の彩管をふるわせた時でも