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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Read 新潮記 (しんちょうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 155,541 characters · 305 screens
――そうだ、それがいいかも知れぬ。
通助はすばやくそう思った。かれがいま屋敷を出ることは、否かれには限らない、誰にしろいま屋敷を出れば、必ず滝川派の者に気づかれるだろう。そのうえ大助と秀之進を追っていった探索の者らも、顔を見知っている、それよりは少し冒険だが、藤尾にたのむほうがどちらにも好都合ではないか。――たしかにそうだ。と心をきめたとき、梅八が妙に干からびたような声で云った。
「あたしも藤尾さんにお願いするのが、いちばんいいと思います、柳さん、そうなさいまし」
「そうだな、お気のどくだが、そうして頂ければ」
「わたくしからお願い申します、太橋さまには大そう御恩になりまして、なにもお返し申すことができませんでした、これが御恩返しになるとは決して存じませんけれど、そうさせて頂ければ、わたくし嬉しゅう存じます」
「では、おたのみ申しましょう」通助は寒笑を顎で示して、「こいつは江戸に置くと危険です、といって斬るほどのこともなく、貴女のお草履持ちに伴れていって下さい」
「いいえ寒笑はあたしが預かります」梅八がきっぱりと遮った、「いくらお武家育ちでもお嬢さんお独り、こんな者をお伴れなすっては却ってお危のうございます、いいえそうでなくとも、この人にはあたし、少し用がありますから」