Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

Read 新潮記 (しんちょうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 155,541 characters · 305 screens

Aozora Bunko

声たからかに詩を吟じはじめる者があった。するとべつの一人がそれを遮って、「待て待て、それを吟ずるならその前にやるべきものがある、瓢兮歌だ、いいか聴けよ」「久木の声は無念流だからかなわんぞ」「うるさい、謹聴しろ」そうどなりつけて、久木と呼ばれた男は喉いっぱいに吟じ始めた。

「瓢や瓢やわれ汝を愛す、汝嘗て愛す顔氏の賢を、陋巷に追随して楽しみを改めず、盍ぞ美禄を得て天年を終らざる、天寿命あり汝の力にあらず、功名また驥尾に付す、瓢や瓢やわれ汝を愛す、汝また嘗て豊公の憐れみを受く、金装さんらん軍に従ふの日」

その詩はさらに続いた。それが済むと次にまたべつの者が唄いだした。しかし案じたほど騒々しくもなく、秀之進はいつかぐっすりと眠ってしまった。

あくる朝、はやく宿を出立したかれは、道を東にとって、諏訪郷から海へと出た。蜿蜒のびている涯しもない砂丘に立って、うちわたす大海原を見たとき、秀之進はまるで眼がさめたような気持がした。――大きいな、そう思った。そういうほかに形容のしようがなかった。東海道でもしばしば太洋を見たが、この感じとは違う。水天彷彿たるかなたまで、さえぎるものもなく、無辺際までつづくかと思える大海原だった。