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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
Read 新版 放浪記 (しんぱん ほうろうき) by 林 芙美子 (はやしふみこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 247,330 characters · 497 screens
頻りと雷同する斑々
時々はあじさいの地位名誉
下碑が鍋尻を洗う容貌
軽く重く衝突する斑々
床の間には忠孝
欄間には洗心
壁間には欲張った風流
ああ私は下婢となって
毎日毎日鍋尻を洗うのだ
斑々の偽善!
自分が何故こんなところにいるのか判らない。只、何となく家庭らしさをあこがれて来たようなあいまいな気持ちばかり。五円のおてあてではどうにもならぬ。――旦那さまは大学の先生だと云う。何を教えているのかさっぱり判らない。英国へ行っていたけいれきはあるのだそうだ。毎朝パン食。牛乳が一本。ひげをそって、水色裏の蝙蝠傘を持って御出勤になる。大学までは、ほんの眼と鼻のところだのに、蝙蝠傘の装飾が入用なのだ。暑くても寒くても動じぬ人柄なり。歴史を語るのだそうだけれども、私は一度も講義を聞いたことはない。奥さんは年上で、もう五十位にはなっているのだろう。彫の深い面のような顔、表札の陶に似た濃化粧だ。奥さんの姪が一人。赤茶色の艶のない髪を耳かくしに結って鏡ばかり見ている。額が馬鹿に広くて、眼の小さいところがメダカに似ている。三十を過ぎたひとだそうだけれども、声が美しい。この暑いのにいつも足袋をはいたかたくるしさ。