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めいじびじんでん
新編 近代美人伝 (上)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (上) (めいじびじんでん) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,076 characters · 256 screens
「そいつが厄介ですね、別にすぐそばに一軒、家が建っていますがね」
わたしはぼんやりと、そんなことも聞いていた。
やがて日露戦争は終局に近づいたが、それに従って国内の景況は不穏になって来た。いわれなき講和、償われぬ要求であると、内閣不信任は喧しい喧噪となった。寵妾お鯉の家に大臣は隠れているといって、麻布の妾宅焼打ちを、宣伝するものがあった。日比谷には騒擾が起り、電車焼打ちがあって、市内目抜きの場所の交番、警察署、御用新聞社の打壊しなどがはじまり、忠良なために義憤しやすき民衆は狂暴にされ、全市に戒厳令が布かれて三々五々、銃をもち剣を抜いた兵士が街路に屯し、市中を巡羅するようになった。無辜の民の幾人かは死し、傷つけられ、監獄につながれたりした。その騒動に、お鯉は何処にかくれていたか、もとより彼女の家は附近に隙間なく護衛が配置されてあった。
その頃のお鯉は出世の絶頂で、勢いは隆々としていた。多くの政客も無論出入していた。大阪の利者岩下は最も頻繁に伺候していた一人である。
秋風一度吹いて、天下の桂の一葉は散った。その大樹のかげによって生ていたものは多かった。