Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
りょしゅう
旅愁
横光 利一
Read 旅愁 (りょしゅう) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 576,941 characters · 1138 screens
異国で金を握り、銀行から出て来るときの、あの仏にあったそのままのような明るさを思い出したのだった。
「それは知りませんね。いつです?」
「今から一と月ほど前よ。」
「じゃ、駄目だ。」
矢代は、すべてが過ぎ去った日のことだと思ってがっかりした。その金が日本へ戻って来ることは確実だったが、異国で使う金額と、日本で使う同額とは、為替関係の意味ではなく、まったく別のものだった。
金にしてそうであるなら、まして千鶴子という生きた婦人のことである。千鶴子の心や身体に変りはなくとも、千鶴子その人の価値が変っている、ある全く不可思議な質の転換を、矢代とて今はどうしようもない、すべては過ぎ去った日のことだと、また肱を枕に彼は畳目に眼を落した。誰の仕業でもない、時でもなければ、人でもなく、自分でもない、地上の出来事のうちもっとも恐るべきことで、そしてまた平凡な一事実に関したことだった。しかし、それがも早や誰に通じることだろう。それもたとい異国の旅をしたことのないものであろうとも、共通に身に襲いかかってやまぬ、日常茶飯のことだのに。――
「そうでしたか。しかし、それは失敗ったなア。