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ひびのパン

日日の麺麭

小山 清

Read 日日の麺麭 (ひびのパン) by 小山 清 (こやまきよし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,039 characters · 11 screens

Aozora Bunko

末吉には世間の目も、他人の思惑もそれほど気にならなくなった。娘のおしづの手を引いて歩いていると、おしづの小さな掌の感触が末吉の気持を鎮め穏かにした。

末吉は環境を変える気になった。おしげの思い出が色濃く纏いついている環境は、流石に末吉の心を物憂くし、堪えがたい気持に襲われることがあった。末吉はいつか歳月を数えるのにおしげの死から逆算するようになった。

移ってきたM町の家は町はずれにあって、四囲は木立も多く閑散としていた。家は物置小屋を改造したような小屋で、四畳半の部屋と土間があるだけであったが、それでも一戸建には違いなかった。末吉はどちらかと云えば衣食住には無関心の方で、これまで大抵の場合、おしげの女らしい要求を無視してきた。自分達の家を持ちたいというのが、おしげの日頃の願望であった。若しおしげがいたなら、この家を見てなんと云うだろうかと末吉は思った。

家主はすぐ隣りに住んでいる夫婦者であった。亭主はまだ六十にはなるまいが、背中が蝦のように曲がっていて、いつも腰を曲げて歩いている。かみさんはそろそろ五十に手がとどく年配で、顔は若いがひどい白髪であった。