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にちにちへいあん
日日平安
山本 周五郎
Read 日日平安 (にちにちへいあん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,297 characters · 56 screens
五
菅田平野はびっくりしたふうで(すばやく)自分の提灯を倒して消した。
「は、はい、私は」と彼はどもった、「――私は厩係りの小、小者でございます」
「こんな時刻になにをしているのだ」
「はい、そ、それが、いま馬草を」
「なに、はっきり云ってみろ」侍はこっちへ近よって来た、「――いまじぶん馬草をどうするんだ、きさまうろんなやつだぞ」
菅田平野はおどおどと立った、侍は「こっちへ来い」と叫んだ、菅田平野はますます恐縮し、身をちぢめてそっちへいった。侍は提灯をあげて面態をしらべようとした、そのとき菅田平野の右手が伸び、侍の鼻柱(眼と眼の中間)を発止と突いた。侍は反ざまによろめき、提灯を手からとばした。菅田平野はとびかかって、もういちど鼻柱を叩き、足搦をかけて押倒すと共に、衿を取って絞めおとした。かなりな手際にみえたが、もちろん菅田平野がそれほど強いのではなく、巧みに不意を衝き、それが成功したものであろう。相手を絞めおとしたとき、菅田平野は躯じゅうに冷たい膏汗をかいていた。
五
約二時間ののち、――馬草小屋の外に人の足音がした。菅田平野が引戸の隙間からのぞくと、暗がりの中にこっちをうかがっている黒い人影が見えた。