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にほんのこころ

日本のこころ

中谷 宇吉郎

Read 日本のこころ (にほんのこころ) by 中谷 宇吉郎 (なかやうきちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 7,988 characters · 16 screens

Aozora Bunko

ときかれて、大いに面喰ったことをおぼえている。

昨年の夏、ボストンで、二十年ぶりに、このエリセーフ氏に会った。二晩ばかり、おそくまでいろいろ話をきいて、非常に愉快だったが、そのうちでも、特に面白い話があった。それはエリセーフ氏が、東大の学生時代に、北海道へ旅行した時の話である。

夏休みに、一人でぶらりと北海道へ遊びに行ったのだそうである。紺絣の筒っぽに下駄をひっかけての一人旅で、汽車はもちろん三等であった。丁度漱石先生の『三四郎』が出たばかりの時だったので、その新しい『三四郎』を一冊懐に入れて出かけて行った。

北海道の景色は広々としているといっても、シベリアを知っているエリセーフ氏には、そう珍しいことでもなかったであろう。それよりも『三四郎』の方が、面白かった。ごとごととのろい北海道の三等車の中で、紺絣のエリセーフ君は、夢中になって、『三四郎』に読みふけっていた。すると、さっきから隣に腰をかけていた中年の男が、しきりにその本をのぞき込んでいる。そのうちに、「もしもし」とエリセーフ君に話しかけた。

見ると、盲縞に角帯をしめた男で、田舎廻りの米の買出人という恰好の男である。