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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
Read 日本の怪談 (ぎじんのすがた) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,030 characters · 115 screens
女房は耳門戸を開けて傍へ寄って往った。
「よくまあ遅くお出でになりました」
女は黙って頭をさげた。
「お気の毒でございますが、今晩も主人は留守でございます」
女はまた何か小声で云ったが、熱した女房の胸には聞えなかった。
「主人は、この比(ごろ)、毎晩留守でございますから、お出でになりましても、当分お目にかかれますまい」
女は二三度頭をさげて何か云ってからすうと門の方へ往ったが、前夜の木立の処でまた見えなくなった。風に吹かれている木の葉が二三枚ぎらぎらと青く光った。
女房はまたそっと座敷に帰った。益之助は何か夢を見たのか判らないことをぶつぶつ云っていた。
「もし、もし、夢を見ましたか」
女房が声を掛けると彼はぐるりと枕の向きを変えたが、もう何も云わなかった。
女房は三度目の女の声を聞いてまた出て往った。入り残った月が蒼白く庭にあった。あの女が雨戸に添うて立っていた。
「あれ程、昨夜も、主人はこの比(ごろ)留守であると申しあげておおきしましたに、それでは困ります」
女房は腹立しそうに云った。と、女は顔をあげた。涙が両眼に光って見えた。
「私は小谷の女(むすめ)でございますが、私の家の先祖から伝わった短刀がございましたが、私の家が没落した時、その短刀は御宝蔵の中へ納められました、どうぞ御主人にお願いして、それを執りだして