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にほんせいしんしけんきゅう
日本精神史研究
和辻 哲郎
Read 日本精神史研究 (にほんせいしんしけんきゅう) by 和辻 哲郎 (わつじてつろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 208,277 characters · 415 screens
桜がなければ春はかえってのどかであろう、――このパラドックスも桜の詠嘆とは言えない。桜はただ人の心に喜びや悲しみを与えるものの象徴に過ぎぬ。また、自分が恋の苦労に没頭していた間に、一度も見ぬうちに、花の色はあんなにうつった、という感慨は、恋に気をとられていた心の詠嘆ではあっても、花を歌ったものとは言えぬ。すべてこれらは眼を己が心にのみ向けたものである。『万葉』においては、己が心を自然の物象に投げかけて、その物象において己が心を詠嘆するのであって、春の自然をただそのままに歌ううちにも、無限に深い感情が現われている。たとえば、
世のつねに聞くは苦しき喚子鳥声なつかしき時にはなりぬ (巻八、春雑、坂上郎女)
のごとき、喚子鳥の詠嘆のうちに作者の心が躍如として感ぜられる。しかるに『古今』においては、物象を己が心に取り込んで、ある感情の符徴として、その符徴によって己が心を詠嘆するのである。従ってそれは、直観的にはきわめて貧しく、ただ心理描写として、濃淡のこまかな、自然の物象のみによっては現わせない心の隅々を、把捉し得るようになるのである。
この種の歌が『古今』