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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Read 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,787 characters · 177 screens
受けよ、我は玉を与えると爾にいった。」
大兄は卑弥呼の管玉を攫んでとった。
「我は爾に逢わんがためにここへ来た。爾は我に玉を与えにここへ来た。爾は帰れ。」と大兄はいって再び空の月へ眼を向けた。
卑弥呼は黙って草玉の実をしごき取ると大兄の横顔へ投げつけた。大兄は笑いながら急に卑弥呼の方へ振り向いた。そうして、彼女の肩へ両手をかけて抱き寄せようとすると、彼女は大兄の胸を突いて身を放した。
「我は帰るであろう。我は爾に玉を与えた。我は帰るであろう。」
「よし、爾は帰れ、爾は帰れ。」と、大兄はいいながら、彼女の振り放そうとする両手を持った。そうして、彼女を引き寄せた。
「放せ、放せ。」
「帰れ、帰れ。」
大兄は藻掻く卑弥呼を横に軽々と抱き上げると、どっと草玉の中へ身を落した。さらさらと揺めいた草玉は、その実を擦って二人の上で鳴っていた。
「卑弥呼、見よ、爾は彼方の月のように美しい。」
彼女は大兄の腕の中に抱かれたまま、今は静に眼を瞑じて彼の胸の上へ頬をつけた。
「卑弥呼、もし爾が我の子を産めば姫を産め。我は爾のごとき姫を欲する。もし爾が彦を産めば、我のごとき彦を産め。