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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Read 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,813 characters · 302 screens
高瀬は歎息して奥へ行った。お島が茶を入れて夫の側へ来た時は、彼は独り勉強部屋に坐っていた――何事もせずに唯、坐っていた。
「なんだか俺は心細く成って来た。仕方が無いから、こうして坐って見てるんだ」
と高瀬は妻に話した。
その日の夕方のことであった、南の戸袋を打つ小石の音がした。誰か屋外から投げ込んでよこした。
「誰だ」
と高瀬は障子のところへ走って行って、濡縁の外へ出て見た。
「人の家へ石など放り込みやがって――誰だ――悪戯も好い加減にしろ――真実に――」
忌々しそうに言いながら、落葉松の垣から屋外を覗いた。悪戯盛りの近所の小娘が、親でも泣かせそうな激しい眼付をして――そのくせ、飛んだ器量好しだが――横手の土塀の方へ隠れて行った。
「どうしてこの辺の娘は、こう荒いんだろう。男だか女だか解りゃしない」
こう高瀬は濡縁のところから、垣根越しに屋外に立っているお島に言った。
「大工さんの家の娘とはもう遊ばせないッて、先刻誘いに来た時に断りましたら、今度は鞠ちゃんの方から出掛けて行きました……必と喧嘩でもしたんでしょう……石などを放って……女中でも子守でもこの辺の女は、そりゃ気が荒いんですよ……」