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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
前垂れの友禅ちりめんが、着物より派手な柄だから揃っていると綺麗だった。春の夕暮など、鬼ごっこや、目かくしをすると、せまい新道に花がこぼれたように冴々した色彩が流れた。玉村の――お菓子屋の――お島ちゃんは面長な美女で、好んで黄八丈の着物に黒じゅすと鹿の子の帯をしめ、鹿の子や金紗を、結綿島田の上にかけているので、白木屋お駒という仇名だった。山口屋――本問屋――のお駒ちゃんは八百屋お七――お駒ちゃんの妹の幸ちゃんは実にぱっちりした、若衆だちの顔つきだった。天野さんの――化粧品問屋――×さんはおとなしく、金物問屋のおぬひちゃん、袋物問屋のおよしさんその他の人たちも醜いのはなかった。
高い脚立をかついで駈てきた点燈屋さんも、立止ってにこついて眺めている。近所の人たちはいうまでもない、通行の人たちも立止っている。そんな時、おしょさんはどんなことを思っていたろうか、いつか、こんなことをはなしたことがあった。
「あたしは十五の時お母さんに叱られたことから、ふと死にたくなって、矢の倉河岸(大川端)に死ににゆこうとしたら、町内の角に木戸口があった時分のことでね、急いでゆく前にぱたんと立ちふさがったものがあるので、怖々顔をあげてみたらば、男の首くくりがぶらさがっててね、あっと思ったとたん死神がどこかへ飛んでしまって――」