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きゅうぶんにほんばし

旧聞日本橋

長谷川 時雨

Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens

Aozora Bunko

旧聞日本橋

あたしは「長吉」という、まっ黒な古人形を持っている。長吉はねずみちりめん無垢の上衣、緋ぢりめん無垢の下着、白の浜縮緬のゆまき、緋鹿の子のじゅばんを着ている。それらは古びきっているが、祖母が江戸へ来てから新らしく縫って着せたものだ、祖母はその長吉人形を抱いて十九の年に下向したのだ。

なんで江戸まで出てきたのかというと、疱瘡を病らっているとき、あんまり許嫁の息子とその母親が、顔を気にして見舞いに来るので、ある日、赤木綿の着物に、赤木綿の手拭で鉢まきをし熱にうかされたふりをして、紅提灯をさげて踊り出し気の弱い許嫁母子を脅かして、自分の方から愛想ずかしをさき廻りにしてしまった。こんなところは面白くないと、江戸の兄をたよって出て来たのだった。小りんという名も、よい容貌も疱瘡でお安くなったというのと、屋寿と祝って、祖父と家をもつときに取りかえたのだ。

祖父は九歳の年に、他の子供たちと一緒に、長い年期で大丸呉服店へ小僧奉公に下ったのだ。父親はもう亡なっていた。足弱は三人ずつ、三方荒神という乗りかたで小荷駄馬へ乗せられて来たのだ。子供の旅立ちを見送りに来た親たちに、顔を見せると、すぐに桐油布を被せてしまって、子供たちに里心を起させないようにしたという、みじめさだ。