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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
だから、ある時は、修験者のかける大きなつぶの数珠を首からかけて、みけんへ深い立皺をよせて真言秘密、九字の咒文をきっていることもある。あたしの父が、悪太郎の時分からの知りあいだ。
仕立やの店は、その実女房さんのお稽古所だったのだ。常磐津のおしょさんだった文字春さんの家が仕立や井坂さんになったのだ。悪太郎の父は、ませていたその頃の小若衆、井坂の浜さんが文字春さんのところへくる夜、格子の敷居に犬の糞をぬっておいた。浜さんが意気な姿で格子をくぐって、おしょさんの前に座ると、おや、いやな匂いだといったので、笑い出しておっかけられた――そんな不良どもが、法律の先生になったのだから、仕立や浜さんが袴をはいて、三級選出区会議員を望んだのは尤な向上である。
彼には妙な癖があった。「先生」とよぶと、ちょっとお耳を拝借と傍へいって、掌をひろげて扇がわりにして何かひそひそと囁く。別段の用事でなくても誰にでもそうだが、ちょいと見にはいかにも腹心の者らしく見える。曾呂利新左衛門を講釈から学んだのではないだろうが、その癖は母などをいやがらせた。
そこの店にスリで有名になった仕立屋銀次がいた。