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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
長病の少年が――火葬場の薬までもらおうというものが、この夜寒に、――しかも重い病人に、荷物をもたせて、綿のはいったものもきせずに――
母一人子一人なのに――なにがほしいんだ、祖母はグッと胸に来たらしかった。全然肌合のちがう嫁ではあるが――祖母には、その少年がたった一人の男の孫であり、その子の母親は私の父の兄の後妻であった。父の兄は維新後の世の中のゴタゴタのころ、懐に金を入れて出たまま行衛不明になって、幼子と後妻だけが残ったのを、家を売った金や残りのものと一緒に実家の兄、テンコツさんの近くへいっていた。
少年は暖かい床に入れられ、私の母に静かにさすられていた。祖母はやがて帰ってくる、自分の子でも私の父には、少年が背負されて来た葛籠は見せたくなかった。
「おやそ、こんな葛籠はなぜ焼いてしまわなかった。お前はなぜ猪之をおぶってすぐに来なかった。」
と、少年の母が来るとすぐ祖母は激しくいった。だが、いかにも後家相をした、色の黒い、小欲で眼の光っている、痩せた長顔の、綿入れを三枚重ねて着て、もてるだけの荷物の包を両手にさげて、転がったら最後焼け死んでしまいそうなかたちしたおやそさんは、いまや息子のことよりは荷物だった。